流れていった浮き輪/美砂
かえってきた
お父さんはハアハアいいながら
水滴をいっぱい落として
「あかんかった」っていった
それで今度は三人でならんで
流れていく浮き輪をみていた
そのへんには
だれもいない
舟も島もなんにもない
浮き輪と海と空ばかり
そのうちまるで消えるように
みえなくなった
「あーあ」
っていいながら
みんなどこかすっきりしたような様子で
いくら目をこらしても、もう、どこにもみえない
かえってくる気持ちのないものは
ずっとあんなふうに
ただよっているんだろうか
どこまでも
流されるまま
しらない国までいって
しらない空のしたを
ずっと ひとりぼっちで
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