流れていった浮き輪/美砂
 
浮き輪がなくなっていて
気づいたときには
けっこう遠くまで流されていた
風がきつかったからかもしれない
お父さんがちょっとだけ顔色をきつくさせてから
でも勢いよくむかっていった
わたしと妹はならんでそれをみていた
お父さんと浮き輪は期待していたように
近くならないで
でも、お父さんは泳ぎ続けて
どんどん小さくなっていくので
そのうち
まわりの音がぜんぜんきこえなくなって
妹が手をにぎってきて
わたしが苦笑いするみたいに変な顔をしたら
妹は泣きそうになって、わたしが
「おとうさん」って叫んだら
お父さんが
とまって、
ちょっとむこうむいていたけど
こっちに

[次のページ]
戻る   Point(7)