自分の名前を失くすはなし/Utakata
自分の身体とそれとの間にある
数十センチの透き間のことを思ってみる
(五分ほどそれを眺めた後
それを手にとって
ポケットに入れた)
街を歩く
ポケットに軽く手を触れたままで街を歩く
たまにポケットから手を離して
十歩ほど歩いた後で再び手を触れる
バスを待つ間
ポケットからそれを取り出す
取り出して慎重に手でもてあそぶ
こっそりと
こっそりと
(運転手は何も言わずに
他の人と同じようにバスに乗せてくれたけれど)
バスの座席にそれを置き忘れてしまいたいような衝動に駆られる
こっそりと
うっかりと
例えばそれは
街の伝言板に 嘘の待ち合わせを書
[次のページ]
戻る 編 削 Point(12)