自分の名前を失くすはなし/Utakata
 


自分の名前を失くしてみた

自分の名前をてのひらにのせる
初めてちゃんと手にとってみたそれは
案外に硬く
今までそれを身に付けていたにしては
まだ馴染みきっていないような感じがした
(もっと柔らかくて 体温みたいなものがあるんじゃないかと
 思っていたのだけれど)

こっそりと
自分の名前を机の上に置く
一人きりの部屋の中で
木製の机とそれが触れ合うと軽い音がした
机に置いた手を離して
自分から離れた自分の名前をためつすがめつする
ときどき部屋を見渡して
自分以外に誰も部屋の中にいないことを確かめてみる
こうしている今
自分は名前を失くしたのだと

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