あまのがわ/前田ふむふむ
 
換気扇が、軋んだ音を降らす。
両親たちが、長い臨床実験をへて、
飼い育てた文明という虫が、頭の芯を食い破るようで、
痛みにふるえる。
今夜も、汚れた手の切れ端を、掬ってきた、
うつろな眼で、アスピリン錠剤をあおる。

・・・・・・

痛むこめかみのなかの暗闇から、
         歪んだ閃光を浴びて。

動いている。
わたしを氷山に葬るまなざしで、
巨大なビルが、キリンの群のように、動いている。
生きているものは、つねに声を、
閉じられた咽頭の脈動を埋めた深みで、
震わせながら、
剃刀のような器を瞳孔のなかに浸して、
たえず、動いている。
  ――――遠く
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