『鬱五郎とライオン』/川村 透
 
ライオンはグロロロ、と鳴いて静かに大きく顎を開けた。
鬱五郎はオズオズと女の子に始めてキスするみたいに小首をかしげながら、
吸い寄せられるように近付いていったんだ。


@鬱五郎はライオンの虫歯にとうとうキスしたんだって。


ライオンの虫歯にキスする鬱五郎はライオンの顎の間に頭を預け、
ライオンの虫歯、を、噛む鬱五郎はライオンの顎の間で甘く噛み砕かれ
ライオンは虫歯、で、鬱五郎をやさしく咀嚼して目の玉がぷつりと潰れ涙、
ライオンは虫歯、で、鬱五郎の唇をやわやわと摺り摺り、押し、開いて
ライオンは、舌、で、鬱五郎の口の中を愛撫しまさぐって宝石を見つけたんだ
ライオンは虫歯、で、鬱五郎の糸切り歯を抱き締めている葡萄のように甘く渋く
ウツクシイ、彼の虫歯菌、ごと、鬱五郎をやさしく噛み砕いた。
噛み砕いたさ。
ライオンは目を細めてゴゴゴと鳴いた。
鬱く、歯躯、毛だか喰ってライオン、トテモ、痛くてかゆゆくって照れ、笑う、
QQ。
鬱五郎はシアワセだった。
シアワセだったんだって、
Qん、


【初出】Fcverse
戻る   Point(7)