『鬱五郎とライオン』/川村 透
@鬱五郎はライオンの虫歯を見つけた、と言う。
大きくあくびをする顎を覗き込んで、
鬱五郎はライオンの虫歯に話しかけようとした、けれど
眠たげにゴロゴロと喉を鳴らすそいつは、
生臭いあくびをほんの瞬間浴びせかけただけで、
ぷいと不快気にそっぽを向いて寝そべってしまった、らしい。
鬱五郎はライオンの虫歯と話しをしたかった。
ちらりと目蓋の底に焼き付けられた、それ、は
ホクロのようにチャーミングで、
象牙を彩るワンポイントの意匠のようにバランスがとれていてステキ
鬱五郎はライオンの虫歯の事をうっとりと思いながら、
そいつの後ろ足にそっと触れる。
ライオンの尻尾がワイパーの
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