廃人/鈴木カルラ
 
英雄だった人、すなわち、かつての歓喜と狂乱の主人公

敗北に埋没する時間は、ただ、去ってゆく

今は、呼吸するためだけの遺骸

怒りと憎悪は、喜びと悲しみすら、その記憶からは消えている

彼は、単に幸福な遺骸として呼吸する

静けさと、それは、穏やかな内側に存在する

現在の歓喜と狂乱の声は、もう、とどかなくていい

静かに、ゆっくりと呼吸する、そのための静寂と、そのために聞こえないこと

英雄だった彼が、幸福な遺骸として求めること



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