もうすぐ六億歳の妻/楢山孝介
 

一億年後も愛してるとかどうとか
気の長い話を歌いながら
家の前を中年の酔っぱらいが通っていった
一億年後のことなんてうまく想像出来ない僕は
一億年前のことを考えようとした

一億年前に恐竜っていたっけ?
眠そうな顔して爪を切っていた妻に訊くと
妻は
よく覚えてません
と言った

それもそうか
僕だって十年二十年前のことは
よく覚えちゃいない
妻は今年で六億歳になるというし
忘れてしまった量だって膨大なのだろう

一つ前の夫の想い出話や
歴史にも名を残した何百年も前の有名な男の
意外な一面を語る時には
呆れるくらいに喋り出すのに
(大半はどうでもいいこ
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