修理/小川 葉
 
壊れたら直せばいいが口癖の
父からもらったラジカセは壊れてばかりだった
とくにアンテナはしょっちゅう折れた
そのたびに父は何も言わず修理してくれた
まるでそれが生きている理由であるかのように

ある日私はラジカセを興味本位で分解した
もとにもどしたつもりだったが音が出なくなっていた
父は徹夜でラジカセを修理した
まるでそれが生きている理由であるかのように

あのラジカセは今はもうない
一人暮らしをするようになった私は
引っ越しのとき邪魔に思ったか何かで処分してしまった
先日父にあのラジカセはまだあるかと聞かれた
私が首を横に振ると父は無言で背中を向けた

それ以来父はいくぶん小さくなったように感じる
壊れたら直せばいいが口癖の父は
今何を思っているのだろう
なくなったものはもう直しようがないとしたら
いったいどうすればいいのだろう

思い悩んでいる私の肩を父がぽんとたたいて
何も言わずに指差したその先には
転んで膝を怪我した母がいた

私と父は二人して母の修理をした
まるでそれが生きている理由であるかのように
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