播種期/南 広一
きのう
蒔かれた種が
もう 発芽へ発芽へと
夏が至るまでのあいだ
止まらない
エスカレーターの列は長く
せめて みどり色を思い浮かべる
わたしとは
違う人たちに前と後を
挟まれていると
すこしずつすこしずつ
違う人がわたしに根を下ろしていき
深く深く わたしに根を下ろそうとして
やっぱり わたしは はずされていく
気がする
めまいがするのでみどり色をさがす
はずされたあと
ターミナルの駅はすでに
いろんなもので埋め尽くされた感があって
気後れするような温度である
そこから不意に足もとをすくわれる
長いエスカレーターのうえから
そうやってみんな すべり落ちていった
そこに みどり色は重ねられて
あった
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