二日月/朝原 凪人
 
夜が控えめな口で笑っております 
ニコリと、いえニタリと 
時折墨色のハンケチで覆い隠しながらも 
笑うのをやめようとはいたしません 
ウフフと、いえキヒヒと 
奇麗な弧を描く口元に見惚れ 
あれは嬌笑(きょうしょう)であろうかと 
わたくしに色情を抱いたのではなかろうかと 
そのようなことを想いながら 
流血の止まない深夜のアスファルトの上を 
脈動に合わせ赤く染まるアスファルトの上を 
とぼとぼ歩いておりました 
深紅に染まりながら夜との逢瀬を想うわたくしは 
しかしやがて気付くのです 
血の流れの止まる刹那の間 
ドグンドグンのンとド僅かな間 
世界は全て夜と同じになることに 
世界は澄めて夜の色になることに 
嗚呼それならば 
あれは嗤笑(ししょう) 
あれは憫笑(びんしょう) 
わたくしは失意のまま 
静かな眠りに就くのです 
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