森番?透過する森のなかへ/前田ふむふむ
 
花弁を剥きだしの裸にして、白い水仙が咲いている、
その陽光で汗ばむ平らな道を這うように、
父を背負って歩く。

父はわたしのなかで、好物の東京庵の手打ち蕎麦が、
食べたい、食べたいと、まどろみながら、
青い空を見ている。

「父さん、もう笑ってもいいのですよ。」

心臓の穴を舐めるような、苦痛の病身をもてあまして、
一九四一年十二月。
丙種合格、徴集免除。
日本建鉄・三河島工場に勤務した、
うしろめたい空と、同じ空を見ている。

あの空の雲雀が飛ぶあたり、
濁る雲が落下している場所で、
初夏であるのに、父の葬儀は冬を運んでいた。
かじかんだわたしの手は、
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