砂景/月夜野
 
ていく

 気がつけばすべてが砂であった
   
 崩落の中に溶けていく万象
 徐々に霧散していく諸々のかたち
 何者かの手によって注がれる力の帯が
 徐々に虚空へと引き上げられると
 かたちは輪郭を失い 砂粒となって崩れ落ちる
 形象にすぎないわたしたちの
 日々の磨耗とその消滅

 人の目は気づかない
 きのうのあなたはもう あなたではなく
 今日のあなたも
 明日には あなたではなくなること
  
    ***

 浮かぶ人影を見た日から
 幾度目かの年の六月の真昼
 父は白くかぼそい煙となって
 大気の中を昇っていった
 火葬場には夏の気配を秘めた光がうつくしく踊り
 不思議と人の死の匂いはしなかった  
 ただ焼香する人々の喪服の裾から
 かすかにしうしうと
 砂のこぼれる音が聞こえた
 わたしの小さな
 砂の耳に
  



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