死神の名付け親/ヴィリウ
はその後姿が細くなり、小さくなり、曖昧になってやがて闇に溶けるまで、長くその場を動きませんでした。
かつて彼が一度だけ、その永遠の命の中で名前を贈ったたったひとりは、こうしてその生涯を終えたのでした。
永く喜びに満ちた人生を送り、彼にまぎれもなく純粋で、一途な愛を捧げた子供が輪廻に消えても、彼はその糸紡ぎの様な輪が廻るのを見詰めていました。
次に生まれて来ても、彼のことは覚えてはいません。広げたまっさらな人生の、その白い絵図に、彼が何かを記すことはもう、未来永劫ないのでした。
闇の向こう、輪廻の輪が廻っています。
彼は少年の気配すら追えなくなったことを確認して、その場を立ち去ろうと背を向けました。
その時、彼の左目から一粒、小さな涙が零れ落ちました。受け止めた彼の手のひらの中でそれは一瞬光り、やがて消えてゆきました。
その温かさを感じて・・・・・・、彼は見えない何かを抱くように、両腕を交差させました。そして深い黄昏の声で、少年の幸福に満ちた生涯を願ったのでした。
その願いこそ、久遠の時をただ一人でただよう彼がもう、決して独りではないという証なのでした。
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