書き人知らず/ロカニクス
 
書き人知らずの本でした
棚から引き抜き
いくつかの確かな硬貨を払い
手に入れたというのに
ふと気付けば
それを生んだ人の名は
どこにも刻まれていませんでした

家に帰り
日差しが中途半端に差し込む部屋で
読み進めていくと
文字が突拍子のない方向に
飛び乱れていました

いよいよ乱丁だと思い
出版社に電話にかけようと思い
後ろのページを捲ってみましたが
そこには白が白らしく
白として浮いているのみでした

どういうことだとつぶやくと
その本は
だってもう
忘れていくことしかできないから
と泣きたてました

そうだよみんなそうなんだよ
でも本なのに
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