メトセラ抄/楢山孝介
 
 
自分が千年近く生き続けることになるなどと
知るよしもなかった少年時代のメトセラ(注:メトセラ(Methuselah)旧約聖書に登場する、九百六十九歳まで生きたという族長の名前。)は
酷く臆病な子供だった
死ぬのが怖くて
怪我をするのが怖くて
傷つくのが怖くて
同世代の少年たちのように
塀の上を歩いて勇敢さを競ったりしなかった
無邪気に遊び回り転げ回ったりしなかった
友達を作ったり、少女に恋したりしなかった

やがて成長し歳を取ってからのメトセラは
臆病を通り越して感情を忘れてしまった
祖父母を亡くしても
死んでしまったなと思うだけだった
両親を亡くしても
涙を
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