ある茶碗/湾鶴
 
つぬと白濁した
陶器の茶碗は
夜空を背にし
まっていた
うっすらとヒビでも
はいっていれば
乱暴に使えるのに
小奇麗で妙な古臭さが
いっそう 艶かしく
おしろいを塗り
厚化粧をした夜鷹を
おもわせた

ねぇ、旦那、あつい醇酒をおくんなまし
と まっているようで
手の甲から爪まで
埋めこんだ おんな に
ふるえた
玉露をそそぐと
眉をたれ
不機嫌そうに
いけずぅと
湯気をくねらせるので
さめるまで置いて
口をつけずに
そのまま
洗って 棚へしまい
すべてに蓋をした
桟橋で待つ夜鷹の
湿った肌が乾くまで



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