夏までの波/銀猫
 
今日の風は西から湿り気と
憂鬱の温度を運んで
まだ頑ななガクアジサイの毬に
青、を少しずつ与える

日増しに色濃いぼんぼりを灯して
夏空の予感を語るのは
滲む青と翠と


傘の冷たさに寂しくならぬよう
ひといきに水滴をはらいながら
ふと
わたしのとなりで
同じ仕草をしていたきみの
しろい横顔を思い出す

(ああ)
(あのとき、雨だったね)
(きみのために泣けなくなって久しい)

六月の空は何処か
きみの気配がして
時折わたしの代わりに
雫を落とす


思い出と言うなら、夏までの波
素足に冷たく泡立っては
追いつかないこころを曳いて
足元の砂を奪いながら
からだだけを置いてゆく
こころ深くを翠に染めて




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