あの日の帰り道/小川 葉
 
仕事を終えた私はふと思い出したように
あの日の帰り道を歩いていた
道はひとまわり広くなっていた
かどのタバコ屋はコンビニになっていた
美味しかったとんかつ屋は店を閉めており
人が住んでいる気配がしなかった
老夫婦が営んでいたケーキ屋は潰れていて
百円パーキングになっていた
よくパンク修理をしてもらった自転車屋は
十階建てのマンションになっていた
変わり果ててしまったこの街には
あの日の二人が暮らしていたアパートの部屋が今もあって
あの日のような若い二人が今日も幸せそうに暮らしていた
ただそれだけがあの日のままだった
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