五月の街/前田ふむふむ
霊のなかに滲む、寡黙な山を
見つめていよう。
やがて、立ち上がる、地平線、
夕焼けの声。
わたしは、泣かないでおこう。
そして、かきあげる髪を削ぐ、
この疑いぶかいナイフを、
あなたの軟らかい恥丘に埋めよう。
・ ・・・・
木曜日の朝が、
暗く、はじまりと終わりを捲っている。
間断に距離をおいて、
古い異なる看板を貼りだした時計塔の列が、
霞んで、消えては、浮んでいる。
濃霧が視線を硬く止めている。
その眠った眼のなかには、
滔々と、碧い街の地図が流れている。
あなたの横たわる、
萌える草木の海に抱かれて。
「孤独な携帯電話」が、槍のように鳴った。
街は動いている。
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