不可視/小川 葉
 
ゴミはゴミ箱に捨ててくださいと彼は言う
イメージと詳細にしか興味がない彼は
ある日からゴミ箱の中に住むようになった
今日もゴミ箱の中はイメージと詳細でいっぱい
そのことに彼はとても満足している
ときどきうっかり実態がゴミ箱に放り込まれることもあるが
その実態を証明するイメージと詳細がなければ
それさえゴミと認識して喜んでいる
イメージと詳細が証明する実態だけを彼は
やっと実態として認めてやれやれと落胆している
自分を実態として認めざるを得ない数少ないひとときである
ゴミはゴミ箱に捨ててくださいと彼は言いながら
実態あるいは真実から逃げてばかりいる彼は
普段あたりまえにゴミはゴミ箱に捨てている私に発見されることはない
そしてまた直方体のゴミ箱に住んでいる彼はまるで
真四角のビジネスビルの中で働いている自分のようにも思われ
彼は私を発見できない
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