鬼婆の髪/三州生桑
 


本堂に通されると、一人の看護婦が正座してゐた。ナースキャップをかぶってゐない。私はナースキャップが好きなのに。
袈裟に着替へた住職が、長持を抱へて現れる。
「これが鬼婆の髪でして・・・」
木箱の長さは百五十センチほど。その蓋を開けると、ぱさぱさに乾いた濃い灰色の髪の毛の束が入ってゐた。よく見ると二重に束ねてある。つまり三メートル以上の長髪だ。
住職が、うやうやしく由来を語り出す。
「江戸時代のことですが、近在に鬼婆がをりまして、その鬼婆を見た村の娘の髪が恐ろしく伸びまして、それはもう切っても切っても伸びまして、これはもう鬼婆の崇りといふことになりまして、寺で供養いたしまして・・・」
箸にも棒にもかからない話しだ。第一、これは鬼婆の髪ではないではないか。
記者の姿は消えてゐた。美しい看護婦がにっこりと笑って言ふ。
「あなたは、もうただの患者さんですから」
住職は、鬼婆の髪を頭に載せて遊んでゐた。



http://www.h4.dion.ne.jp/〜utabook/
戻る   Point(3)