実/アンテ
では我慢できなくなり
樹を掘りおこして持っておりるようにと
言葉たくみに男を説きふせた
男が苦労して樹を運び
庭に植えると
女はさっそく実をぜんぶ食べてしまった
次の朝 男が目をさますと
女の姿はどこにもなく
庭に出てみると
樹の枝には実がもとのように生っていた
陽ざしのとどかない枝をよく見ると
バラバラになった女の身体の一部が
枝にぶら下がって風にゆれていた
樹のまわりの土が赤黒く変色していた
陽が高くなり
影の部分に光がさすと
残っていた女の身体も実に変わった
樹を裏山にもどそうかと思案していると
旅人がひとり訪ねてきて
めざとく庭の樹に気がついた
ほう これはまたおいしそうな実ですな
赤黒い土を踏みしめて
旅人はうれしそうに枝を見あげた
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