Voiceless/灯和
ひどく僕の指先が透明になる気がした
記憶の中の君は後ろ姿ばかりで
どんな表情だったかも思い出せない
ぼくは少しぬるくなったコーヒーを飲みながら
君がいつ帰ってくるのか、こっそり考える
そう、例えば5月の夜のような涼しさ
そんな風に日々を笑い飛ばせたら
いつだったか失くしたナイフとともに君が帰ってくるかもしれない
(所詮は僕の想像でしかない)
FMラジオはいつも変わらず
同じようなナンバーを流し続ける けれど
長い長い寒さがふいに途切れたことに気付き、
駅前のカフェで喧騒から切り離されてみても、
そこにただ君はいなくて
僕はすっかり冷めたコーヒーを飲み干す。
どこか知らないところへ行ってしまった君にもしひとつ言えるとしたら 、
・・・静寂の音を僕は知らない。
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