失われた夜の夜/いねむり猫
うす闇の中に漕ぎ出す小船で
香りの良い酒を口に含む
舌の奥でひらめく遠い国の人々の夢
長く私を苦しめている怒りが、闇と香になだめられていく
夜はゆったりと流れ出す死にかけた巨大な生き物の動脈からの黒い血
生と死を同時に脈打ち
黒くぬめる光りのうねり
止めることができない夜の動脈の侵食は
やがて失われたあの夜の大河へとそそぎ込む
一人歩きつづけていた夜道に
うずくまっていたおまえに
私はなぜ声をかけてしまったのだろう
おまえの見上げた目は ただうつろで
私のことなど見えるはずもなかったのに
うずくまっていたおまえのかたわらには
動かなく
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