ある昼のバグダッドの町家にて/I.Yamaguchi
 

厚く塗った白い顔を寄せ、
妾でもいい、と君は拝むはずだった。

湯で固めた蛋白は今つややかに輝きだし、
汗で洗われた小麦の肌を健やかに実らせる。
うつろに閉じていた瞳は爛々と黒く、
市場で働くベールの影は長く濃い。

来客の意を告げずに押し開けられた戸は再び閉まり、
外から覗く目を睨み返すと子供が隠れた。
土をむき出しに見せる部屋の戸を破り、
水がめを静かに取り除け食器棚を漁ると、
中に小さく青く柄をつけて、
風で鳴るのは丸いフォーク。

窓を閉めたときに子供の声は小さくなったが、
暗闇を欲する君の言葉に従ったからだ。
母を奪われたと子供は知ったが、
若い僕は人種の違う女の年をしらなかった。

戸を破ったと誰かが知れば、
家を荒らされたと君は走るだろう。
何日も洗っていない女の肌は甘かったが、
穴をこじ開け吸った水は茶色く臭い、
アラブの魔法で僕に火をつけ、
ただ一筋の黄色く細い胸毛に変えた

ある昼のバグダッドの町家から、
国に戻った名誉の白人は僕。
止める子供の声を聞かずに鍵おろし、
盗み働き母を犯した奴として。
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