赤ノアイ/朝原 凪人
出ていきます
その様子をマスターは
カウンターの中から右目で見送りました
次の日
ウェイターの少年はいつものように働いていました
そしていつものようにやってきた赤い女を
その中にある半分の黒を
どこかに行ってしまって暗闇が広がるだけの左の目で捉えました
女は少年にいつものようにウィスキィを注文します
女がそのウィスキィを半分飲み終えた頃
後からやってきた毛むくじゃらな男と女は店の外に出て行きました
少年はそれを右眼でただただ見やるだけでした
少年はマスターに訊ねます
僕の左目はどこに行ったのでしょう
マスターは答えます
きっとあの女の腹の中に閉じ込められちまったのさ
それは哀しいことでしょうか
少年の言葉にマスターは首を振ります
そいつは俺が決めることじゃない
風が鳴き始める夜の酒場
少年は残った右の目で
あるいはなくなった左の目で
女の出ていったドアを見つめました
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