投資/小川 葉
 
残りの人生は・・・」
 そこで、老女は途切れ途切れになって、その沈黙に、私は失礼であることは百も知りながら、おかしくて、おかしくて、ついに笑い出してしまい、そうして私たち、二人して笑った。幸せなひとときだった。しかしそれから一ヶ月して、老女は亡くなった。
 彼女が一生かけて返済した金額は、結果的には九十万円だった。そして残りの十万円は、息子夫婦に渡されたのだと言う。息子夫婦はその頃、借金の返済に、あと十万円足りなくて困っていた。息子はひとり自殺しようと、ひそかに考えていた。母からもらった十万円が、彼の命を一ヶ月、先延ばしにしたのである。
 久しぶりに、彼と街で会った。前に会ったときよりも、顔色がいい気がした。少し高級な酒をオーダーした彼は、開口一番、借金が十万円もあるのにね、と、苦笑してみせた。
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