投資/小川 葉
「百万円といったら、大金じゃないですか。」
驚く私に、老女は、落ち着いた様子で笑いながら言う。
「ふつうだったら、そう思うかもしれません。でもこれで人生、やっと清算できた思いなのです。」
電力会社が、この老女のあばら家に、十数年に渡って、電気料金を二重請求してきたのだと言う。間違った配線工事によるものだったというその十数年分の差額は百万円に達しており、それがまとめて先日、老女に支払われた。
「私は生まれたときから百万円の借金を背負って生まれてまいりました。当時、父が事業家で、世の中の好景気をいいことに、亡くなった祖父の警告を聞かず、大きな投資をしてしまったのです。その見返りは、しばらく
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