ボルヘスさん/楢山孝介
すよ。
これまで書いたものも、これから書くものも全部」
どんな時代の本も揃っている図書館に
ボルヘスさんと彼の妻以外に人の気配はない
そのかわり、鳥や獣の鳴き声が
ボルヘスさんの耳元で響くことがある
「鳥や獣だって本を読みますよ」
そんなことを言う妻の顔や
図書館の全貌や
本当に生きているのか分からない自分の姿を
見ることが出来ない盲目の身に
ボルヘスさんは密かに感謝する
全てを見通しているかのように
ボルヘスさんの年若い妻は笑う
図書館も笑うように揺れ始める
バサバサと本の落ちる音がする
あるいは、本の飛び立つ音がする
※ホルヘ・ルイス・ボルヘス
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9C%E3%83%AB%E3%83%98%E3%82%B9
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