ボルヘスさん/楢山孝介
 
ボルヘスさんはアルゼンチンの詩人さんだ
彼はいつの頃からか
世界中のあらゆる本が集まる巨大な図書館で
年若い妻と共に暮らしている
盲目の身のボルヘスさんのために
妻は毎日本を読み聞かせる
「昔読んだ内容と違うような気がするな」
「何十年も経てばそういうこともありますよ」

友人の新作の中に
ボルヘスさんを悼む文章があるのに気が付く
「あいつも歳とって呆けたのか」
「何十年も会わなければ、そういうこともありますよ」

妻に口述筆記させた詩が随分貯まったので
ボルヘスさんは久し振りに詩集を出そうと考える
「どこから出してもらおうか」
「あら、もう図書館に並んでいますよ
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