準盲目の青年/はじめ
 
幾つも幾つも作り続けた
 そして国際ピアノコンクールで 彼は大会史上初となる盲人として出場した 彼の繊細だが大胆で 緊迫感溢れる情熱的な演奏は多くの聴衆と審査員を魅了した 結果的に彼はまたもや大会史上初となる盲人として優勝した 彼の念願の夢が叶ったのだ これで鍼灸按摩を辞めてピアニストとして生きていける 彼は盛大なスタンディングオベーションに包まれながら暖かい涙を流した
 優勝後 彼は孤児院に出向いて 孤児院の先生に付き添われて彼女の墓のお参りをした 小さな墓に花束と優勝楯を供えた 鳶が 風が 草花の揺れる音が 時間の流れが 彼の耳に入ってきた 彼は両手を広げてそれらを感じながら その場を後にした
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