それは母の読むおはなしのように/朝原 凪人
 
ために
そのてをつかんで
あしたのために
おかねをつかんで

そうやって
ヒトは
いきていくために
ほかのなにかをつかんで

そのかわり
うまれてきたときに
もっていたものを
ひとつずつおとしていくの

そしていつのまにか
そのてのなかに
さいしょなにかが
あったということさえも
わすれてしまうのね
それはかなしいことなのかしら
わたしにはわからないの

なにかをなくしたかわりに
そのてに
なにがのこっているのか
なくすことがこわくて
なにがのこったのか
ぎゅ〜って
にぎった
そのてのなかを
のぞいてごらんなさい

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