出来損ないの太陽が地上に墜ちてくる惑星にて/楢山孝介
「昔は本に何でも書いてあった」と言う
本というものは、今では一冊も残されていないし
書くという行為を祖父はわたしに教えてはくれない
「書いても哀しくなるだけだ」と祖父は言う
哀しいとは何かと訊くと、祖父はいつも
「そのうちわかる」と答える
「そのうちわしも死ぬ」と付け加える
「そのうち」がいつまでもやってこないので
わたしは祖父の言葉を全部は信じられないでいる
死とは何かということも理解出来ない
墜落した出来損ないの太陽が
遠い大地を燃え上がらせている
「あれが死だ」と祖父は言う
もちろんわたしは信じない
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