夕闇に君の名を/ヴィリウ
燃える夕霞に 背を攫われる幻覚を見て
衝動に任せて其の腕を引いた
振り返る
何もかもが鮮やかに赤い
其の目も 肌も 髪も口も凡て
名前を呼ぼうとして
ああ と思う
ああ 夢だ
晩秋の黄昏に 細く長く唄が響く
逢魔ヶ刻に攫はれて
ひとの道を外れしは
惚れて惚れて惚れ抜いた
真逆御前であらうとは
さざめく微苦笑 返す微笑
せめて今くらい 謡わせて呉れ
思いの丈を 伝えさせて
血を吐くような夕暮れに
自分の足で連れて行かなければならないのだから
愛しい人を
ああ 黄泉の坂の頂へ
云えなかった思いを
雁字搦めに縛
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