真実/小川 葉
人がだめになっていく様は美しい。悲劇のヒーロー、ヒロインには涙し、身近の悲劇には鈍感な仕合せ者の、ものごとの真理を見抜けない盲目に、わたしは辟易する。現実の退廃には目を伏し、幻影の希望だけを見つめ、そうして視野の外にある、真実の悲劇の実体を知ろうともせず、生きているのが、仕合せ者の罪ではないでしょうか。
たとえば、芝生の辺境に咲く花。名前は知らない。芝生の上を、歩きはじめの幼児が、よちよち歩いていて、お母さんが、こっちよ、こっち、と手招きすると、幼児は、お母さんのほう、つまり名もない花の方へ、あぶなっかしく歩いていき、ころび、花は踏まれる。花弁はことごとく破壊され、茎はなぎ倒され、葉から
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