帰還(feedback)/高橋良幸
 
川のせせらぎかと思った
マンホールの奥に それはある
空気入れで押し込めたタイヤの中にも
 いわば
作りかけでいたはずの 夏の星座
暗闇を並べるのは不自由するばかりで
地平まで 窓に映る蛍光灯の行列を紡ぐのだ

雪虫を食べてしまえそうな夕暮れに含んだ
初雪の奥にも、やはり
頭蓋は遥か銀河の間を往来する船にも似て
濡れ落ちる雪のひとひらの間をくぐり
一番遠くの音に耳を澄ました
   何十もの足音が湿っている、(街の雑踏、中略)
  林立するビルの裏側の
  中略
 サーチライトの根元
クラクション

街が抱える
エンジンとも風ともつかぬ低いうなりを
抜けた

もう音が無いかと思った宵闇の
もう星も無いかと思った先
誰もいないと思った公園に誰かがいた
戻る   Point(12)