近代詩再読 八木重吉/岡部淳太郎
 
て、それが八木重吉の詩の大きな特質のひとつになっていると思う。


甕 を いつくしみたい
この日 ああ
甕よ、こころのしづけさにうかぶ その甕

なんにもない
おまへの うつろよ

甕よ、わたしの むねは
『甕よ!』と おまへを よびながら
あやしくも ふるへる

(「甕(かめ)」全行)


草をむしれば
あたりが かるくなってくる
わたしが
草をむしつてゐるだけになつてくる

(「草をむしる」)


 前者は『秋の瞳』から、後者は第二詩集にして最後の詩集になった『貧しき信徒』(一九二八年)から引いた。「甕(かめ)」の方は「うつ
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