初夏の森には秋の風/佐々宝砂
何も見えなくていいのだ
握りつぶしてきた虫の数を数えてみようったって
できない
地球の反対側の生き死にだって見えやしない
私は限りあるイキモノであって
書物だのインターネットだのが親切にも教えてくれる
数々の雑多な情報を頼りに生きている
書物片手に森に行こう
町なんかどうでもいいのだ
町には人間と人間のつくったものしかありゃしない
ただし何も持たず森に佇めば
自分が人間であることをときに忘れてしまうから
片手には愛する書物を
なんでもいいけど
私の場合はラフカディオ・ハーンの『骨董』
キイチゴの茂みには
いつだって蜘蛛の巣とナメクジ
ぽつぽつと大きくなりは
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