思い出の種/柴田柴助
 
この道をまっすぐに行くと
昔、昔の思い出が眠っている
一歩一歩と歩き始めた少女一人
未だにメリーゴーランドの夢に乗り、回されている少女

季節はもう春になってしばらくたつはずが
メリーゴーランドはいつまでも満開の桜だと
一歩、一歩
止まない桜に幻覚を誘われ
いつまでもまっすぐに進めない少女

少女は知らなかった
何も知らなかった
それは眠っている思い出のことさえも

思い出は春を向かえ
いつの間にか芽を出していた
いつの間にかぐんぐん育ち
花を咲かせていたというのに

少女は知らなかった
桜はいつまでも満開であると
メリーゴーランドは毎日春だと
そんな夢のような世界に
少女は未だ、どっぷり足から肩まで浸かっていた

思い出はときに散ることもある
この道をまっすぐ行ったところに
大きな桜が一本
少女をメリーゴーランドに乗せるため
皮肉にも咲き続けるのであった


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