点火/水町綜助
ピンクの透明なライターを
すかして落ちる電球の光は
穏やかな菱形にゆれていて
口をあけてすごした何百回の夜を
あくびなみだのふるえにも似て
思い出させた
夜の路地を行く人々は
人々
だから
わたしはひとつ
夜風に遮られて
区切られている
わたしはやさしい言葉を
持ちえない
ほしを見ることがおそろしい
それはほんの隣のスツールで
ほんの一瞬
グラスを傾けて
液体をすすりこんでいる
「それだけ」
のにんげんと同じだから
ながれる液体を
溢れさせるいみを
みいだせない
そのひとが口をひらく
「今日はいい夜です」
のうらがわのドアを開けて
夜空を長方形
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