花に、雨/弓束
 
別の場所で雨宿りせざるを得なかった。
 結局サトが葉桜を出て、近くにあった建物へと駆けていった。雨が地面で跳ねて彼女の靴を濡らし、葉から滴り落ちた水が肩を冷たくしていく。
 中途半端に終わった会話に対するサトの気持ちを突きつけるようで、彼女は少し申し訳ないような念に埋まっていった。
「嫌なわけじゃ、無いの」
 サトはもう声の届く場所に居ないのに、彼女はぽつんと呟いた。彼女の手は冷えた空気に食われて、温度をじょじょに失っていく。
 ぽとん。彼女の足元に散乱した桜の花弁に水滴が落ちる。ほぼ平らになっていた花弁の上で水滴は丸い粒を作り、周りのそれと合わさって水溜りができていく。
 彼女は何故か痛くなった胸をきゅう、と押さえ、その様子を降りしきる雨の音たちの中で見ていた。
 そう簡単にこの雨は止まないだろう。眩しさをなくした空からはそのことがうかがえた。
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