遡上/小川 葉
瞳の湖には魚が住んでいる
普段はのん気に暮らしているが
ときどき湖が氾濫して
涙の滝となりそんな時には
湖から流れ落ちぬよう
人知れず遡上しているのだ
この事実は案外知られていない
つらいのはあなただけではない
魚もつらい思いをしている
湖に戻ろうと必死である
流れ落ちてしまえば
もはや命はないのである
ほら
いま魚が
あごのあたりまで流されて
しかし
ぐんぐん遡上して
がんばって
頬を通過して
やっとの思いで
いま目尻の手前
あと少しだ
がんばれ
がんばれ
手に汗にぎって
たのむから
もう
きみ
泣くのは
やめなさい
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