意識と蟻/潔
。僕は何度も眉をぎゅっと寄せた。しかし、そんなことくらいでは全くもって不穏な気分は解除されなかった。
「切るしかないのか?」
段々瞼に血の玉がいくつも連なった腕が描き出された。次に出てきたものは三年前に愛用していたピンク色の駆血帯。その次は点滴や採血に使われる黒の翼状針に中が真空になったスピッツ。どうやら僕の頭の中には自分の腕を出血させることしかないようだった。
僕は今、学生をしていたならきっと腕を傷だらけにしているのだろう。背中と太腿と左鎖骨の少し下に一輪ずつ薔薇を咲かせ、左前腕には所々茶色が染み付いた包帯をぐるぐる巻いて、ピアスは体中につけるだろう。そして、決して大人にはならない。酒と煙草とクスリとセックスに生活の大半を費やし、堕落の世界で生きてやる。そのうち背中には翼が生え、大人になりきれない青臭さを残した中途半端な体を高層マンションから投げ捨て、魂のみを夜空へと羽ばたかせるのだ。こうして僕は永遠の命を手に入れる。
しかし、現実社会に入門することを認めてしまった今の僕には、それらを意識のうちに留めておくことしか許されない。
だから今夜も頭の中で蟻が溢れている。
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