低地/「ま」の字
青空の下に
大きな穴が並んでいる
列車が来て停まる
線路の端に
白い雲が湧いていておそろしい
時間になると汽笛がひびき
車両に載せられた人と財布を
地番外にできた
あたらしい穴まで搬んでゆく
線路わきには
列車を待つ客が三々五々集まり
雑談したり
煙草をふかしたりしている
「社会主義ってのはね
「あれは市場主義の影みたいなもんでね
街の方角には
いつしか
ユーモラスなアドバルーンもあがらなくなった
曇ってきたが
風が吹き渡って心地よい
ただ影がないだけだ
「新時代を拓きましょう」
錆びついた拡声器が突然喋りだす
列車が近づいてくる
おれは
野積みの箱からシャンパンを掴みだし
曇天に
力いっぱい投げ込んだ
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