高い所と雲の近さは妄想の距離/田川修作
 
高層ビルの二十八階から双眼鏡で

おふざけなほどに複雑な街を見て哲学した

京王百貨店に急ぐ若者は歩道の白線につまずき

電気屋の屋上でずっと厚い本を読む中年は排気に髪をなびかせている

そんな風景を見ながら一生で理解出来るものが

幾つあるか考えてみようと思っているのに

彼岸花の蜜を吸う黒い蝶が

何故死ななかったのかと

そればかり考えていて

本当に二十八階からは街がよく見えた










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