落丁した夏/前田ふむふむ
夜のアゲハ蝶の行き先は、決まって、
忘れられた夢のなかの王国の紫色の書架がもえている、
焼却炉のなかを通る。
くぐりぬけて、
グローバル・スタンダードのみずが曳航する午後、
雨の遊園地で、イルミネーションを灯した笑顔たちが、
うしろむきに立ちならび、その背中に映るように、
子供たちが、傘のない病院のベッドの上で濡れている。
傷ついた眼差しは、絶えず降りそそぐ星座の、
軟らかいひかりの束を、見つめることはない。
か細い手で、廃墟のプラネタリウムを抱いて――、
アゲハ蝶は、その盲目のときを、
雄々しく、泳いでいく。
・・・・・
[次のページ]
戻る 編 削 Point(28)