はぐれ水/千波 一也
 


もう
どこにも帰れない

そんな気がした夕暮れは
どんなことばも
風にした



 ながれる雲の
 行き先はしらない

 突きとめずにおくことが
 しあわせだとは
 かぎらない

 揺られる髪は音もなく
 より添うでもなく
 離れるでもなく



透けてゆくものに
残されること

それが、時刻



ほんとも嘘も
燃えるようにして
かばい合い、
奪い合い

それゆえに、水

それすらも
水にして



たとえば明日が右手なら
左の手には
温もりを置き

かなしみの日を
輝くために

両の岸から




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