春の記憶/角田寿星
 

規則的にしずかに眠らないモーターが
半音階だけその声をあげて
いつの日か再び息づきはじめる時
スキャナーは熊のように鼻をひくつかせ
カウンターは目盛りをゆるやかに揺らし
サーモスタットが重たい瞼をうすく開けるだろう
やがて春のプログラムは再起動し
フィルターに覆われた
純白のファンが回りはじめ
かすかに立ちのぼる蒸気は陽炎となり
廃水は淀むことなく清流をつくるだろう

そして雨が降るのだろう
やわらかな春の雨が
ふかく立ち込める中性子雲を弾きながら
鉄塔に突きささった巨大な右腕を濡らし
わずかな血の痕跡を洗いながして
凍りついた彼女らの目覚める時が
ドームの
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